interview

“好き”という気持ちに理由なんてなくて、ただ心が知っているだけ

川口
エンジニア
2025.7.1
幼少期は体調に異変が出るほど異性と接することが苦手で、周りの目を気にして自分を偽りながら生きていたという川口さん。その苦しさを乗り越えたからこそ見えたもの、感じたことを伺いました。
川口

プロフィール:良くも悪くも、見る世界が狭かった幼少期。しかし学生・成人・仕事を通し、それぞれの節目で大人になれたと感じている。今はすべての人と経験に心から感謝を伝えつつ、ゲイという生き方を誇りに技術職に従事する日々を送っている。

ゆらぎのグラフ

振る舞ってきた性
性自認
性のゆらぎグラフ 1 2 3 4 5
  1. 異性が苦手だった幼少期、周りとの違いに気づくも、一人で抱え込んでいた。

  2. 異性への苦手意識を克服するために夜の仕事に従事。自分を偽る日々と転機。

  3. 職種をかえ、自分らしくいられる環境に。

  4. パートナーや周囲の人との関わりのなかで、小さな心地よさを大切したいと気づいた。

  5. 自分に合ったラベルを探しにいく。迷い、悩むとき、頭で考えるより心に従うべきことに気づく。

  1. 異性が苦手だった幼少期、周りとの違いに気づくも、一人で抱え込んでいた。

  2. 異性への苦手意識を克服するために夜の仕事に従事。自分を偽る日々と転機。

  3. 職種をかえ、自分らしくいられる環境に。

  4. パートナーや周囲の人との関わりのなかで、小さな心地よさを大切したいと気づいた。

  5. 自分に合ったラベルを探しにいく。迷い、悩むとき、頭で考えるより心に従うべきことに気づく。

INDEX
  1. 「恋愛の話」から遠ざかっていた少年時代
  2. 夜の仕事、そして「演じる自分」
  3. 「自分を隠す必要がない場所」に出会って
  4. 吹っ切れた先にあった「自然な日常」
  5. 「悩むなら、まず心に聞いてみたら?」
振る舞ってきた性
性自認

第1章 「恋愛の話」から遠ざかっていた少年時代

実姉にさえ目を合わせることができず、同性が好きであることを「治すべきこと」と思っていたという川口さん。悩みを誰にも話せず一人悩んでいた当時のお話を伺いました。

川口さんがご自身のセクシュアリティに向き合いはじめたきっかけはいつ頃だったのでしょうか?

たぶん、『向き合う』と言えるほど自覚的になったのは、大人になってからですね。ずっと自分は『普通』じゃないという感覚があったけど、何がどう普通じゃないのかを言葉にできないまま過ごしてきました。気づきのきっかけは小学生の頃です。

小学生の時から違和感があったのですか?

はい。女子と話すことがとにかく苦手でした。喋ろうとすると声が詰まるし、汗が止まらなくなる。母とは普通に会話できるんですけど、姉ですら目を見て喋ることができない。今でも覚えています。目を合わせるのが怖いんです、理由もわからないままに。

人見知りだったのでしょうか?

違いますね。『人見知り』とかではなかったと思います。女の子と同じ空間にいると、自分が壊れてしまいそうになるというか…。小学校の教室で、たまたま女子が着替えているところに鉢合わせてしまったことがあって、その瞬間、吐き気がして。心じゃなくて体が『無理』と言っていたんだと思います。

でも、その時に『女性が苦手なんだな』とちゃんと自覚したのかもしれないです。苦手というより『生理的に受けつけない』。ただ、それを誰にも言えなかった。言ったところで『なんで?』と言われたら答えられないし、自分でも理由がわからなかったから。

まわりとの違いを意識するようになったのはいつ頃ですか?

早い段階から意識するようになっていたと思います。たとえば、女子がメイクをしていたり、おしゃれをしていたりすることが理解できなかったんです。『そのままで可愛いのに、なんでそんなに自分を変えようとするんだろう?』と思っていました。男性がビジュアル系のように、イベントごととして“装っている”ことを見ても抵抗がないのに、メイクをした女性が隣にいることには、なぜか強く拒否感を覚える。それが自分でも不思議でした。

それに気づいてから行動に変化はありましたか?

女性を避けるようになりました。中学・高校と男子校に進んだのも、それが理由です。『勉強したいから』とか『受験頑張りたいから』とか、建前はあったけど、本音は『もう女性と関わりたくない』。それしかなかったと思います。

中高の時、恋愛感情はありましたか?

男の子に対してありました。今思えば初恋だったと思う子がいて。その子が受けるからという理由だけで同じ学校を選んだくらい。ちっちゃくて可愛くて、気が利いて、僕の忘れ物を察して『消しゴム、また持ってきてないでしょ?』と渡してくれるような子でした。

思いは伝えたのでしょうか?

その時は伝えられなかったですね。でも、大人になってから再会した時に『ずっと好きだったんだ』と告白しました。そうしたら、『あー、なんとなく分かってたよ』と言われて(笑)。自分だけが隠してるつもりだったんだなって。

周囲は案外気づいていたんですね。

そう思います。今思えば男子校時代の友達も、みんな薄々わかってたんじゃないかな。『お前って、そういう感じだよね』と言われたこともありましたし。他校の女子と遊びに行くという話になると、僕だけ『いや、今日はちょっと…』と逃げたりしていて、たぶん“そっち側”って思われていたんだと思います。でもそれを否定する気力すらなかった。むしろ、『バレてない』と思い込もうとしていたんだと思います。

自分のセクシュアリティに向き合い始めた10代、どんな思いでしたか?

『このままじゃいけない』と思っていましたね。病気だとさえ思っていました。女の子と話せない、女性に嫌悪感を持ってしまう、自分の性に合った恋愛ができないということが、『欠けてる』と思っていたんです。

治さなきゃいけないという焦りはありましたか?

はい。人に迷惑をかける前に、ちゃんと治しておかないと、と思っていました。自分自身がどうこうというより、『人にどう思われるか』をすごく気にしていました。『このままじゃ大人になれない』と思っていました。

第2章 夜の仕事、そして「演じる自分」

女性への苦手意識を克服すべく、夜の世界に。そこでは自分の素性を出さずに済んだものの、「自分」の喪失を感じていったそう。「自分を偽る」ということに心が蝕まれていく中、どのように転機が訪れたのか伺いました。

高校を卒業してからは、どのように過ごしていたのでしょうか?

大学進学をやめてすぐ、『女性と話せるようになろう』と思って、水商売の世界に飛び込みました。お酒を飲めば、多少無理してでも女性と話せるかもしれないし、接客という名目があれば喋る理由もできるし、自分じゃない誰かの設定で動けると思ったんです。

それはまるで「演技」するような感覚で働いていたのでしょうか?

そうです。名前も違うし、貧乏学生というキャラ設定が与えられていたので、自分の素は一切出さなくてよかった。でも、それは同時に、『本当の自分は要らない』と言われている気もしました。仕事のために嘘を重ねていくうちに、自分がどこにいるのかわからなくなっていきました。

それは辛いですよね。心は大丈夫でしたか?

正直、荒れてました。家ではひとりで酒を飲んで寝るだけ。冷蔵庫には何もないけど、酒瓶だけはどんどん増えていく。何をしても満たされないし、人と関わるのが怖くなっていました。愛想笑いはできるけど、本当のことなんて何も話せなかったです。

誰かと付き合ったり、恋愛をしたことは?

なかったですね。そういう場面はあったけど、それはあくまでその時だけで、そこに恋愛感情はなかったです。ただ欲を満たすだけというか、深く関わるのがめんどくさかったんです。『どうせこの人も本当の自分を知ったら離れていく』思い込んでたから。

そこまで自己否定が強かったんですね。

はい。親にも言えなかったですし、姉とも疎遠になっていました。姉には最後に会った時に、『病気じゃない?』と言われて、もうこの人には自分のことは話さないでおこうと決めました。血は繋がっていても、分かり合えないことはあるんだなと感じましたね。

その時期が人生で一番苦しかったときでしょうか?

そうですね。夜の仕事で自分じゃない誰かを演じて、日中は寝て、酒を飲んで、自分をごまかす日々。その繰り返しに疲れて、『自分がいない』という感覚が強くなっていきました。何のために生きているのかも分からなかったし、『このまま消えても誰も気にしないだろうな』と思っていました。

なかなかつらい状態が続いていたと思いますが、どのようにしてそこから抜け出したのでしょうか?

ある日、お客さんに『今日は誕生日だから、一緒にいてほしい』と言われて、少し高いホテルを取って一晩付き合ったんです。シャワーを浴びている相手を見て、『このままずっと嘘をつき続けて生きるのか』と思った時、ふっと糸が切れました。

その瞬間が、人生の転機だったんですね。

はい。もう無理だなと思って、お店をやめました。そこから自分の人生をちゃんと歩きたいという気持ちが少しずつ芽生えていきました。

先ほど、自分の性的指向を「治す」というお話がありましたが、「隠す」より「治す」という感覚だったのでしょうか?

そうですね。その中でも特に親に迷惑をかけたくないと思っていたんです。結婚をして、家庭を持ち、名字を継ぐことこそが、長男の役目と言われていた時期もあったんです。そのすべてを果たせない罪悪感と、申し訳ない気持ちが、迷惑をかけていると思っていました。僕がこういう人間だからという理由で、誰かが嫌な思いをするのが嫌だったんです。だから治そうと思っていました。でも、やっぱり無理でした。

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