プロフィール:幼稚園生の時から卓球を始め、小学校6年生の時にジュニアオリンピックに出場。高校2年生の時にはインターハイで9位に。大学時代も卓球に打ち込むも、新たな目標を見つけて選手生活にピリオドを打ち、ベンチャー企業にて夢中で働き、今もなお様々な挑戦を続けている。
instagram Xおままごとでは男役をやることが多かった幼少期。制服のスカートを履くことが嫌だと感じたり、自分の体が女性になっていくことに違和感があった
進学先でFtMの方と出会い、感覚や価値観の違いを体感する。自分の中では性に対してあまり考えていなかったが部活動の中で社会や周りの声を聞くことになった。
性別や見た目で判断される就活への違和感からLGBTQなどの性的マイノリティの存在を体感し、認知した。女性らしさや男性らしさを使い分けながらの仕事や恋愛をしていった。
男性になりたいわけではないけど女性としての身体にコンプレックスを感じていたことから胸オペやホルモン注射を行う
自分の性をカスタムして生きていく考え方。悩んでいる人へのアドバイス
就活時の違和感を経て初めてLGBTQという概念を知ったというゼロさん。また、男性とのお付き合いも経験され、感じたことがあったようです。
就活の時期は、また女性の方に戻っていますね。
当時の就活では、女性らしい服装を求められていました。就活用のメイク講座などもあったのですが、あまりメイクが好きじゃないこともあり、面倒臭いと思っていました。その講座ではメイクをすることがマナーだ、身だしなみだ、礼儀だ、ということを言ってて。であれば、ギリギリのラインで女性らしくするかと思いながら就活をしたんですけど、面接官に結構見た目のことやふるまいのことを言われたんです。エントリーシートを出すと、体育大学ってだけで『どっち?』というようなことを言われて困惑しました。『君は男なの?女なの?』と言われ、『女性です』と答えると、『だったらもっと女性らしくした方がいいよ』と言われました。そこがで初めて、性別やLGBTQについて興味をもって考え始めるきっかけになりました。
それまではLGBTQという概念を知らずに過ごされていたのですか!?
知らなかったです。就活を体感してからやっと初めて調べて、そういうことか!と知りました。性の悩みより卓球で勝てない悩みの方が大きくて、性の悩みにリソースを割けなかったんですよね。そんな経験もあり、結局就活もせずに、自分たちで会社を作ろうと、友達同士で仕事を始めることになったんです。
仕事の内容は就活時にちゃんと自分を見てもらいたかったという経験もあり、見た目や性別ではなく、その人が何を考えてるか、何を経験しているのかを見てくれる就活イベントを自分たちで作るというものです。現在は、Re:DRIVE(リドライブ)という屋号で、仕事をしています。
LGBTQを調べたり、実際に人に会われたりして何か変わりましたか?
最初、自分はレズビアンかもと思ったんです。それで、新宿二丁目のレズビアンバーに行ってみたら、予想の通り、同じような人がいっぱいいて、すごいと思いました。でも、新宿二丁目のコミュニティを内とするのであれば、外の世界も好きです。どちらの世界にも行きたいなと感じました。
その後男性とお付き合いをする時期もありますね。
はい。男性と付き合っていました。自分の恋愛対象は8割が女性なのですが、残り2割のタイプの男性と出会って恋愛することもあります。仕事を始めると営業をする際に、どうしても女性の格好の方がやりやすいということがあり、この頃は結構女性らしい格好をしていました。さらに仕事が忙しくて一旦卓球をお休みしたんですが、また再開して、たまたま一緒に練習した人が同年の男性で、『なんかいいな』と思ってそのまま3ヶ月くらいで付き合うことになったんです。女性らしい格好が気持ち的にも女性寄りさせ、男性に目が向いたというのは多少あると思います。でもやはり男性が私を女子として扱うことに対してはストレスを感じていました。彼とはそこから3、4年ぐらい付き合ってたんですが、結婚の話になったときに結局自分は結婚しないとなって別れてしまいました。
男性とお付き合いされてる際に、相手から女性としてのふるまいを求められることはありましたか?
割と自由にさせてくれました。かなり前なのですが、付き合うと同時期くらいにLGBTER※(※LGBTER:株式会社ランドホーが運営するWEBメデイア)に載ったことがあるんです。それを相手に見せて、彼女がいることや女性も好きだよということを言った上で、自分から告白しました。当時相手は自分が女性のことも好きなことを気にしないと言っていましたが、実は気にするタイプだったのではと今になって思います。
それでも男性っぽくしたいという時には好きにしたらいいんじゃないと言ってくれて、付き合っている最中に胸オペ(胸を取る手術)もしました。『やりたいと思ってるんだけど、いい?』と相談すると、『いいんじゃないの。』みたいな感じでした。ただ、相手は結婚して家にいてほしいっていう欲求が強くあって、最後はちょっとギクシャクしてしまいましたね。
「結婚して家にいてほしい」といった考え方も嫌だと感じていたんですね
自分がそうなれないなと感じていることもあり、『女性が絶対に家事しなければいけない』という考えもあまり好きじゃないです。本人が好きでやっているならいいんですけど、自分がやりたいかと言われると、あまりやりたくないと思います。男性、女性に関わらず、得意な方がやればいいと思います。料理はあまり好きじゃないですが、もし付き合った人が自分よりも苦手だったら、自分がやった方がいいなと思います。
そうだったんですね。当時の話をもう少し聞かせてください。仕事のために女性らしくされていたということですが、どの程度、女性らしくされていたのでしょうか?
女性っぽい格好といっても、ギリギリ女性に見える程度です。女性の中だと割とかっこいい服を着ているなと思われるラインだと思います。ちょっとズルいですけど、社会通念としてある『女性らしさ』も切り替えて使えるもんは使おうと思っていました。
女性らしい服装を着ることに対して、制服が嫌だったころのような嫌悪感はなかったのでしょうか?
制服はスカート一択でしたが、仕事の時は割とカジュアルめなジャケットなどある程度自分で選べたこともあり、自分が嫌じゃなく、かつ女性らしさもあるギリギリな服装を選びに行くということができたのでそこまで嫌悪感はなかったです。でも、やはり営業していると、会社の社長などが出てきてセクハラをされることもありました。それは嫌でしたね。
自分の中での許容できるところまでだったので大丈夫だったということですね。
靴もパンプスじゃなくて革靴にして上品さを感じつつ、男性ではないよねというくらいのものを選んでいました。それは自分たちで作ってた会社だからこそ、決まりがなく好きなようにできてたのであまり苦しまなかったです。
胸オペとホルモン注射を行っているゼロさん。どんな思いでされたのか、今どのように感じているかを伺いました。
コロナのころ男性側に振り戻ってきていますが、何かあったのでしょうか?
コロナ禍で仕事と職場と家の行き来しかしなくなった時に、それがめちゃくちゃ楽に感じたんです。
卓球をしに行く、遊びに行く時に女性らしい格好で外に出ていたのですが、それがなくなった時に、『あれ?めちゃくちゃ楽だな』と感じた時に、『もしかしてもう少し男っぽくした方が、生きやすいのでは?』と考えたことがきっかけで男性ホルモン注射を始めました。結構、勢いとノリでした(笑)。そこから一気に、人からの見られ方が男性に変わってくるようになって、今の状態で落ち着いています。
今までは女性性に違和感がありつつも、男性になりたいわけではない印象でしたが、身体的にも男性に寄せていこうと思うようになったということでしょうか?
身体に対して、コンプレックスに近いストレスがあり、どんなに痩せても胸はなくならず、一生このストレスを抱えるなら今少し辛い思いをしても取ってストレスフリーで生きたいと思いました。今は子宮はありますが、乳腺は取っています。子宮を取ってまでして、戸籍を変えるかといったら別にそこまではしなくていいかなと思っています。性別がよくわかんない方が面白いかなとか思っちゃって。初めて会話する相手が自分のことを男性として見ている雰囲気を感じたら、自分って他の人から見ても男性っぽいんだ、と相手の反応を見てるのも楽しいという感じですね(笑)。
ホルモン注射などの大きな決断はすぐに決められたのでしょうか?
リスクもあるので多少悩みました。情報を調べた上でどうしようかなと思ったんですが、自分のストレスになりそうなものは全部排除していこうと思い決断しました。女性らしくするというのが自分にとってストレスなのであれば、ボーイッシュを極めたかったので、もうこの選択しかないと思いました。
ちなみに、手術やホルモン注射をすると体調の部分も含めてどういう変化がありますか?
胸オペは胸がなくなる、ただ胸が痛いというだけで終わりですが、ホルモン注射は最初の半年ぐらいは変化が大きかったです。体の変化だと、声変わりしたり、生理が止まったり、髭とかすね毛とか生えてきたりします。あとは、ホルモンバランスから3大欲求が爆上がりしてしまうので、お腹が空いてしまって、太ってしまう人も多いと思います。注射を打つと、急に中二の思春期男子のようになりました。
大変さは少しはありましたが、全然知らない感覚で面白かったですね。例えば、男性が女性をお持ち帰りする、ワンナイトしたいと思うことがあると思うのですが、男性に近づいたことから、その感覚も確かにわかる、そう考えてしまうのはしょうがないと思えるようになりました。ホルモンバランスの関係で集中できないし、何も手につかないみたいな時もありましたが、慣れると落ち着いてきました。
他に何か困ったことはありましたか?
トランスジェンダー向けの風俗がないことですね。普通の風俗には入れないので、レズビアン専門のところに行けばいいのかというとそれも少し違うし、ないんです。自分以外にも結構困っている方はいるみたいです。
友達にもそういった話はオープンに話しているので、困りごとを自分の中で溜め込んでしまう、相談先がないということに関しては困っていないです。この時も友達に10分に1回ムラムラしてる、どうしようとか言ってました(笑)。相手は女の子ですけど。
ご両親にはホルモン注射や胸の手術のことについて伝えましたか?
ホルモン治療も胸オペも伝えていないです。両親はピアスも嫌いで絶対開けるなと言われましたが、開けてます。そのような具合なので伝えていません。術後や注射開始後に実家に帰るタイミングはありましたが、胸には透明のパッドを入れてきました。声も『た、ただいま、久しぶり(高音)』と意識的に変えて(笑)。バレてるのかバレてないのか分からないですけど、何も言われていないです。
世の中のラベリングに対して、こう変わったらいい、これは良くないと思っていることはありますか?
メイクみたいに取ったり外したりできたらいいですよね。ラベリングは良くないと言いつつも、ラベリングされると1人じゃないというように安心する部分もあるじゃないですか。それは多分女性だから、男性だから、レズだからとか、ゲイだからとその場にはまればいいんですけど、変えたい場合もあると思うんです。なので外見の性別を取り外しができればいいなと思います。
人に自分の性別を説明するときはどうしていますか?
人に説明するときは性別が決まってないと関わりづらいと思われる場合も多いので難しいです。自分はXジェンダーです、クエスチョニングですと言ってしまうと、関係性が作りづらい人もいるので、そこはあまり拘らずに自分はFtMですと言う時も多くあります。少し違うと感じている部分もありつつ、やっていること自体はトランスジェンダーのような部分があるので、別に嘘ではないかなと感じています。
100パーセントそのラベルのど真ん中ということは必要ないです。自分の人生において性別が関係なくなっているという感覚が近いです。例えば、恋人との関係を考えたときに、性別がどうこうというよりは結婚だけはなくパートナーシップでもいいのではないかとか、逆に子供作っていくのであれば、じゃあ戸籍は変えないほうがいいよね、と柔軟に考えています。あまり性別のことが1番最初に来ることは少ないので、目的に応じて後ろからついてくる感じだと思います。
ゼロさんはあまり今まで性について悩まれなかったようですが、性や性別に悩んでる人に対してアドバイスはありますか?
自分からは特にないですね。でも悩むということは周りのことを考えているからだと思うので悩んでいる方は偉いと思います。きっと、周りに馴染みたいと思うから悩むのだと。
自分は友達を含めてですが、好きな人にどう見られてるかだけが気になります。なのであまり知らない人に対してはどう見られているかは結構どうでもいいです。大人になると、むしろ話のネタになると感じます。トランスジェンダーということも、人と違うことで話が広がっていきます。でも、最近だとLGBTQが受け入れられていてカミングアウトしても割と反応が薄いんですよね。『女の子が好き』と言っても最近はよくあるよね、といった反応で受け入れられている感じがします。もちろん受け入れられることはいいことだと思います。
LGBTQなどのマイノリティ側の人たちだと、自分でこうしたいと思って試行錯誤して生きていて、それが報われ始めて、『やったー!』となってくことが多いと思うのですが、そうでない方は前の世代による生き方の"型"みたいなものがあるようにも見えるので、その流れに乗ろうとすると、ある程度働いて、年金もらってといった生き方が退屈になっちゃう人もいるのではないかなとか思っています。